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楽屋裏話

  • ★寄席・協会の関係★(番外篇 ・春風亭柳昇) ~社団法人落語芸術協会事務局長 田澤 祐一~

更新日2008年2月7日

最近ご無沙汰を致しまして誠に申し訳ございません。
正月興行も大盛況で無事に終了出来ましたこと、皆様のお陰と感謝しております。
さて、法人改革も待った無しの状況になり、当会も3月の予算総会から規格に合った会計処理と、定款の改正も視野に頭の痛い日々を送っている昨今です。
事業面も「文化庁舞台芸術魅力発見事業」も無事に済み、新規参入の「文化庁舞台芸術体験事業」も今秋から始まるので、こちらも本腰を入れ準備に取りかかるべく検討中です。今日は昨年から始めた花伝舎での落語講座(7期)の日、夜9時過ぎまで事務所待機なので、久々に「芸協浪漫・番外編」を書くことにします(本当は定期的に書かないと・・すいません)

故春風亭柳昇師匠との旅パート1

その年の移動芸術祭の公演は10公演とかなりの長旅で、関東から北陸・山陽・四国と大変な旅でした。何とか無事に公演をこなしながら、旅も後半に入ったころの出来事。
公演も香川・愛媛・高知と四国3県を残すのみとなり、少し余裕も出来てきたが、旅には何があるか判らないので気は抜けない。今回の旅の座長は時の副会長柳昇師匠。この師匠との旅は本当に楽である。気を付けることは空腹にさせないことと、高座の持ち時間を守ることで、後はほっとく方が本人も良いようで、少々しくじっても怒らない師匠なのです。その日は時間の関係もあり四国へはフェリーで土庄町に入ることに、フェリーの船中、私はデッキでぼんやりと海を見ていると、そこへ柳昇師匠がお出でになり隣りに立った。
「こうやって海を見てると昔を思い出すね!」私が無言でいると、 「昔ね、戦争で船に乗って戦ったんだね」
「師匠は海軍でしたか?」
「いや、私は帝国陸軍軍曹だったんだ。」
「陸軍で船に乗って戦ったんですか?」

「戦争も終盤に入り民間人を外地から輸送船で送るのに、丸腰じゃしょうがないから頼まれてね。こっちは帝国陸軍機関銃中隊所属でね」
「き、機関銃ですか?す、凄いですね」
「船長からね、貴方のような歴戦の勇士が守って頂けるのは大変頼もしいと言われたね」
「・・・・・・」
「只、持ってきた機関銃2丁の内、玉がちゃんと出るのは1丁でね。後の1丁は飾りだね 何しろ本土の生産は女子や子どもが一生懸命作ってる状態だから、不良品もあるんだね」
「・・・・・・」
「玉の出る方もね、試し打ちを定期的にしとかないと、いざという時に役立たないんだよ 。落語も一緒で普段から稽古をしとかないといけないね。」
「・・・・・・」
「機関銃の銃砲が熱くなるんだよね、そこから本格的に打てるんだね、落語の稽古も一生 懸命やると、冬でも汗をかくんだね、そこからが気合が入るんだね。一緒だね。」
機関銃から落語まで幅の広いお話・・・・

「そうだ、余計な話をしたけど聞きたかったのは、お昼ご飯はどうするのかね」
「現地に着くのが12時なので、宿に荷物おろして皆さんで近所の店で食べようかと?」
「あ~そうね、今日はカツ丼が食べたいね。カツ丼だね。さっきの話ね戦争に負けた一番の原因は腹が減ったのがまずかったね。食料さえ充分にあれば絶対負けなかったね。」
玉の飛ばない機関銃でも腹が満ちてれば負けないのかな~

無事に宿に着き、皆さん揃ってお昼ご飯を食べに出るが! カツ丼が無い店ばかり!
当たり前と言えば当たり前で、地方の漁村で日本そば屋を探そうと言う方が無茶だ。
師匠以外の皆さんは、
「ここ瀬戸内の島だよ魚の美味しい所でさあ~なんでカツなの?」
私に言わないで師匠本人に聞いて下さいよ。
師匠は
「カツね、カツよ、良い高座の為にカツ食べないとね。勝つためにね」あ~困った・・・
4件目の店で「あの~カツ丼は有りますか?」
「カツ丼?無いけど食べたいの?」
「はい!是非お願いします。お願いします。」
「判った、やってやるよ」
助かった~店の大将!後光がさしてますよ。
他の皆さんは揃って元気よく「さしみ定食・焼き魚定食」。あっと言う間にカツ丼以外は揃ったが!肝心のカツ丼が・・・・師匠「皆、冷めない内に食べなさい。」頂きます~。私は責任上、目の前のさしみ定食に手を付けずに、師匠のカツ丼を待つ!
「田澤さん、食べなさい。」
「いえ、冷めても構わないものですから」
5分後・・
「まだかね・・・」
10経過・・そして15分経過・・
「遅いね・・・・」
20分たった頃
「お待ちどう様」
おおおっ~来た!
師匠「あれ?これはカツレツだね?カツ丼と言ったのに!」
「ま、腹減ったからいいや」・・
そして、5分で召し上がりになり高楊枝!
私を見て
「シッ・まだ食べてるの?戦争じゃ死んでるね。早く食べないと空襲時に逃げ遅れて死んじゃうんだね!」
貴方の為にカツ丼を探し歩き、しかも来るまで一緒に待ってて差し上げたのに・・・・
私以外の皆さんは、満腹で満足そうに散歩に出かけ会計の為残った私に、
大将「カツ遅くなってごめんね、メニューに無いから家にあった豚肉でカツ上げたから時間がかかっちゃって申し訳ないね」
「何をおしゃいますか、お詫びするのはこちらの方です。そんな思いまでして作って頂いたカツレツをカツ丼じゃないなんて、ごめんなさいわがままで・・」
「いいんだよ。年寄りには良い思いさせてあげなくっちゃね、戦争で苦労もしているしさ、君も大変だろうけど頑張ってね」。 私は本当に思った。日本には人の良いやさしい人がたくさん居るんだと。

次回はパート2 翌日のお昼も・・・・・

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