芸協トピックス

楽屋裏話

  • ★寄席・協会の関係★(番外篇 ・旭五郎) ~社団法人落語芸術協会事務局長 田澤 祐一~

更新日2007年11月30日

芸協浪漫 惜別編

前回はピーチク先生とのことでした。今回は旭五郎先生とのエピソード 東京ボーイズのリーダーであった旭五郎先生が亡くなった。私が芸協事務局に入って間もないころ、楽屋で紹介され初めてお会いした時「何て恐そうな方々なんだろ!」これが印象でした。その後は「何て優しい方々なんだろ!」に変わるまで、そう時間は係らなかった。ただ大先輩の先生なので、若手の落語家達のようなお付き合いは出来なかった。
面白い場面は楽屋(末広亭)二階で東京ボーイズ先生と故やなぎ女楽師匠が一緒にいる時、私に女楽師匠が必ず
「芸協で一番悪い」
「極悪ボーイズだよ本当に」
と、にこにこ話す。
五郎先生が
「勘弁して下さいよ~」
「顔だけ見て判断しないで下さいよ」
こんな会話を何度も聞いた。その度、
「また~本当に勘弁して下さいよ~」
大きな体を小さくして誤るように
「師匠にはかなわないな~そんなに悪くないですよ~」
すかさず先生は私に、
「本気にしないでね、善良ボーイズだからね!!」
実際は本当に(善良)東京ボーイズですよ。
ある時、新宿末廣亭に朝から詰めていたので、お昼を食べに(新宿の昼時は大変な人で混雑)1時過ぎに出て昼食を済ませて、2時ごろ楽屋に戻ろうと歩きだした。一方通行の道路(新宿3丁目は多い)で狭い上に路上駐車の車も多く、後ろから車が来ると立ち止まり端によらないといけない。この時も何台も来て少しいらいら歩いていると、また一台来る「ちぇまたか」端に寄らず無視してやろうかな!睨むように後ろを向く「ベンツだ!!運転手の髭が見えた」まずい、場所が場所だけに恐い方達かも?直ぐに端へ寄るが、ベンツは中々通り過ぎない、さっき睨んだのがまずかったかな~ちょうど真横にきて止まった。恐い~どっどしよう~
後ろのドアのスモーク窓が下りて大きな顔で首を出し大きな声で

「おはようございます」
「いつもありがとうございます」
「新宿ですか?乗って行きますか?」

何だ五郎先生か。運転は菅六郎先生と助手席は仲八郎先生だった。(知らない人が見たらまるで、親分を乗せて運転手とボディーガードが同乗してる感じ)。皆さん本当に丁寧な方なのでわざわざ挨拶するためにゆっくり近づいてきたんだ。そして後ほど楽屋でと言い残し去っていった。
道が狭いので会話中、後ろの通行人と車は立ち往生。ただ皆何か勘違いしているのか、私に文句も言わず避けるように足場早に去っていく。リーダーの恐い顔もたまには役に立つんですね。そして数日後、また昼を済ませ3丁目を歩いていると、パトカーがいっぱい来ている(何かあったのかな?)見物人に
「何かあったのですか?」
「暴力団事務所に発砲があったそうです」
新宿は恐い所だ。楽屋に戻り待機していると15時10分上がりの東京ボーイズさんが、まだ来ないと前座さんが騒いでいる。
「おかしいな~いつもなら1時間前には楽屋入りしているんだが」
「まだ、3時少し前だからそのうち来るよ」
「でも着替えとか楽器出したりで時間がかかるんですよ」
そこへ飛び込むように東京ボーイズさんが来た。ばたばたと挨拶もそこそこに2階へ行き何とか時間に間に合った。高座から下りて2階へ上がる時に、五郎先生がメンバーに珍しく怒ってる?私も2階へ行き聞いてみた。
「何かあったのですか?道路渋滞か何か?」
「道路は順調で3丁目の一通を曲がろうとしたらパトカーがいっぱいなんですよ」
「そうなんですよ、何でも暴力団事務所に発砲があったそうですよ」
「そうでしょ!そんな事だろうと思って六(菅六郎)に早く通り過ぎろと言ったのに!!窓開けて「何かあったの?」と聞きやがった。この顔にベンツだろ!警察に調べられて散々ですよ。全部調べるんだよ!楽器だと言っても信用しないんですよ!」
「あ~それで楽屋入りが遅くなったんですね。」

その日はそれから普段無口な五郎先生の独演会・・・。
「見てくれで判断されたらたまらないよね~。楽器なのに。それもね~アコーディオンとウクレレと三味線だよ。武器になるはずがないよね~。六が余計なこと聞くから、大体こいつがそれっぽく悪く見えるんだよ!!」
お怒りはごもっともですが、私から見てもベンツに皆さんが乗ってるだけで、世間は間違いなく「その筋」と思うでしょう。
私はよく五郎先生の事を親しみも込めて「お頭」(おかしら)と呼んでました。頼れる方で、私が毎日生意気に首に巻いてる18金のネックレスも実は、お頭が何処からか定価(お金は私が払ってます)で買ってきて頂いたものです。本当は30グラム50cm位でお願いしたのですが、持ってきたものは違ってました。
「相手が間違えてさ~50グラム60cmになっちゃたのごめんね。だからさ~脅して30グラムの値段にさせたからね、これ証拠の領収書ね!」
「えっ~、いくら間違えでも安すぎですよ?それに脅して・・?」
「大丈夫、そいつは兄弟分みたいなものだから!」
先生は我々にはいつも丁寧で優しいが普段はやはり見てくれどうりかな? 。
現在もお守りの様に首にしているのですが、あまりの首痛で医者に行った際、(その日は外して)主治医が「若いのに肩と首が堅いね~何か担ぎ物をする仕事ですか?」と聞く。思い当たるのは・・・(50グラム)かな?

教訓「やはり分相応のものを身につけましょう。」

天国のお頭のご冥福を心よりお祈り致します。

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